【第1章 気になるあの娘】
外の空気が肌寒くなり始めた頃のこと。
(そろそろかな………)
人がまばらになり始めた夕焼け小焼けの公園にいる僕は入り口の方へ目を移した。
(きた………!)
黒く短い髪の小柄な女の子がとぼとぼと歩いてきた。少女はふぅっと青いベンチに腰掛けた。その瞳はどこを見るでもなく遠くの夕月夜を眺めている。
隣のベンチいる少女には目を向けず、ただ一緒に前を向いたまま僕の心臓は高鳴っていた。
夕月夜を眺める静寂。時だけが流れている。
公園で遊んでいたのは子ども達は次第に家に帰り始めていき、いつしか僕と少女岳になっていた。少女は帰る素振りもなくぼんやりとじっと煌めく星座を眺めている。
(あっ………!)
突然、前触れもなく少女はすっと立ち上がり、物悲しそうな顔のまま公園を後にした。
(行っちゃったな………)
気がつくと辺りは夜の闇に包まれていた。
【第2章 ある日のこと】
(きた………!)
女の子は大抵毎日やってくる。いつもの青いベンチに腰掛けていつものようにぼんやりとした眼差しで夕月夜を眺めている。
僕は気にも留めない素振りで前だけを見つめ、思いを巡らせている。
(いつも寒いのに遅くまで………)
(家に帰りたくないのかな)
(何を考えてるんだろう)
「君、いつもここにいるね」
(えっ…話しかけられた…)
物思いに耽っていた僕に突如雷鳴が轟いた。僕の頭は突然真っ白な銀世界になってしまった。気がつくと、僕は高鳴る心臓に弾き飛ばされるままに公園を飛び出して走っていた。
息が絶え絶えになり、やっと僕は立ち止まった。
(何やってんだか、僕は………)
辺りは既に夜の闇に包まれていた。
【第3章 それからというもの】
明くる日、僕はまたあの場所で待っていた。心にはいつもと違う緊張のベールをまとっていた。
(今日はあの娘に近づいてみよう)
しかし、その日は彼女は来なかった。
それからというもの、僕は毎日待つけどあの娘が現れることはなかった。
(どうしたんだろう………)
(あの日、僕が逃げ出したからか)
(いや、そんなことはないはず)
(じゃあ、なんで来ないんだろう)
あの娘の隣に座りたい。話を聞きたい。冷たい肌に触れて温めてあげたい。心を通わせたい。
ふくれていき続ける僕の想いとは、裏腹に公園は少しづつ暖かくなり始め、陽気な春の気配がしていた。
【最終章 だって僕は………】
悶々とした日々を僕は送っていた。名前も知らない子のことをずっと待ち続けている。今日は、雲一つない青空が広がっていた。
不意にずっと昔から知っているような感覚が甦ってきた。
(………来るかも………)
(あっあの足音は………!)
聞き覚えのある懐かしい音が聞こえてくる。僕の鼓動は急に元気を取り戻した。いや、取り戻しすぎている。
(あれ………)
瞬間、冷たい何かが心を通り抜けた感じがした。
(………笑い声………!?)
(え………)
もう一人誰かいる。あの女の子は、とても楽しそうに喋りながら歩いている。初めて聞くあの娘の笑い声、初めて見る楽しそうな笑顔。そして、そのまま2人でいつもの青いベンチに腰掛けた。
(………)
僕はまた物凄い勢いで駆け出していた。頭の中がくらくらする。がむしゃらに走ることで後悔や悲しみ、色んな感情がごちゃ混ぜになる。
息が絶え絶えになり、少し落ち着くと、思考のピースがどんどんはまっていき出した。
(どうしようもなかったんだよね)
(だって、僕は………)
公園には春の陽気一杯の光が差し込んでいる。
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