ランニング好きライトゲーマー虫虎(小説家志望)の日記

ゲーム、ランニング、文章書き、読書、昆虫、子育て、オナ禁、映画、人間関係、音楽、僕が考えていることなどを書いている雑記ブログ

自作小説「Rusty Rail」①~GARNET CROW~

【何もない静かな街】

 ここには、特別な何かがあるわけではない、所謂普通の街。豊かな田園が多いのんびりとした街。列車は1時間に1本来るくらい。勿論、都会とは呼べないし、かといって誇れるほどの田舎さがあるわけでもない程々の街。そんな静かな街だけど、私は気に入っていた。

 

 私はいつもこの街の錆びれた駅から列車に乗って高校へ通っている。高校は駅から10分程歩いたところにある。

 

「ゆうちゃん、おはよー」

 

「あっおはよう、のりちゃん」

 

 私が自分の席に着くと、隣に座っていた横田紀子が話しかけてきた。

 

「ねえねえ、昨日のあのドラマ見た?」

 

「うん、見たよ」

 

「あれさー………」

 

 何気ない会話から始まるいつもと同じような日常。学校へ行って、授業を受けて、部活して、帰ってテレビを見る。特に変わり映えすることなく時は流れている。私の住んでいる街のように。私は、漠然と、それでいいと思っていた。

 

「ちょっと、ゆうちゃん聞いてる?」

 

 束の間、考え事をしていたのか気がつくと紀子が不満げな顔をして私を見ていた。

 

「あっごめん」

 

「益田くん、レギュラー入りしたんだって」

 

「へぇーそんなんだ」

 

 益田くんと言えばサッカー部の人だ。うちのサッカー部は割りと強いらしいからレギュラー入りは凄いことなのだろう。

 

 益田大樹は、端正な顔つきと真面目な性格で男子と女子からどちらともに人気がある。同じ教室で授業は受けているものの、私にとっては別の世界の人という感じだった。たぶん、私とは見えている世界がまるで違うのだろう。

 

 教室のドアが開いて、先生が入ってきた。

 

「ホームルーム始めるぞー」

 


【運命のくじ】

 何も代わり映えのない日々を送っていた私だったけど、振り返ってみると今日が運命の歯車が廻り始めた日だったのかもしれない。

 

「今日は席替えするぞー。くじを作ったから順番に引くようになー」

 

 先生の快活な声が教室に響き渡る。

 

「えー、もう席替えかー」

 

「よっし、最前列から解放される」

 

 教室がざわめきで充満している様子を眺めていた先生が仕切り直す。

 

「よーし、前の席の人から順番に引けー」

 

「あーあ、席替えかぁ。せっかくゆうちゃんと一番後ろの席で楽しかったのになー」

 

 紀子が残念そうに言う。

 

「そうだねぇ」

 

 私も残念に感じていた。気心知れた友達と隣同士で一番後ろの席、しかも窓際という特等席から離れなければならない。

 

 窓の外に視線を移してみると、陽光を浴びて明るく見える校庭と澄み渡った青空の間に体育の授業中の生徒達がいた。

 

「うわー、大樹いいなー、一番後ろの席の窓際じゃんか」

 

 男子生徒達の楽しそうな声が聞こえてきた。

あっ窓際なくなったちゃったんだ。望みを捨てていなかった私は少しがっかりした。

 

「最後は一番後ろの席の人がくじを引けー」

 

 先生の声が響く。

 

「私たちだね、行こう」

 

 席替えは私たち学生にとって、ちょっとしたイベントだ。

 

 自分の席次第で学校生活の楽しさや気楽さが全くと言っていい程変わってくる。良い場所を獲得することも大事だけど、誰の隣になるのかも大事だ。むしろ、こっちの方が大事かもしれない位だ。

 

「あっ私、また後ろの席だ」

 

 私が手にしたくじは運良く後ろの席だった。

 

「うわー、最悪、一番前だ」

 

 隣でくじを一緒に引いた紀子は意気消沈していた。

 

 私の席は一番後ろの窓際から二つ目の席だった。

 

「小野さん、宜しくね」

 

 不意に男の子に声をかけられて私は驚いた。声のする方を向くと、真っ直ぐに益田大樹が私を見ていた。

 

「あ……えと……よろしく」

 

 私の声は緊張して消え入りそうだった。

 


【接近】

「小野さん、宿題できた?」

 

「うん、やったよ」

 

「最後の問題が分からなかったんだけど、教えてくれない?」

 

「うん、いいよ、ここはね………」

 

 席が隣同士になってから、益田くんは私によく話しかけてくれた。

 

 私は彼に話しかけられる度に少し狼狽しながら会話していた。彼の真っ直ぐな瞳に見つめられると、緊張してしまう。けど、会話を重ねていく内に少しずつ自然に喋れるようになっていく自分が嬉しかった。

 

 家に帰ってからは彼との会話を反芻してみて楽しんでいた。

 

 自分からはなかなか話しかけられないけど、彼に会えるのが嬉しくてしょうがなかった。

私の頭は益田くんの事で要領が一杯になっていた。

Rusty Rail

Rusty Rail