ランニング好きライトゲーマー虫虎の日記

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自作小説「Rusty Rail」②~GARNET CROW~

【少し先の未来】

「最近、益田くんとよく話してるよね」

 

 紀子が興味津々といった表情で私を見ている。

 

「益田くんがよく話しかけてくれてさ」

 

 私は顔が赤くなるのを感じて、お弁当の中身に視線を落とした。恋愛経験のない私にとって彼との会話はとても刺激的だった。

 

「いいなー。私も益田くんの隣になりたいなー」

 

 紀子は心底羨ましそうな声で言う。

 

 益田くんと接する時間は地味で目立たない私にとっては夢のようだった。白黒だった日々に鮮やかな色彩を与えてくれた。最近、私は少しだけ彼との会話を楽しむ余裕ができていた。そして、自分からも少し話しかけられるようになってきていた。

 

 でも、夢の時間も残り僅かだ。今は六月の下旬、七月になれば、再び席替えがある。

 

 隣の席ということだけで繋がっている私達は席が離れてしまえば赤の他人になってしまう。もうすぐ来る未来は、私の気分を落ち込ませた。

 


【約束】

「おーい、今日は席替えするぞー」

 

 先生の快活な声が教室に響き渡る。

 

 毎月恒例、生徒達はざわめき出す。

 

(ついにきたかぁ……)

 

 私は意気消沈した。もう少し彼と一緒にいたかった。話がしたかった。

 

「席替えか、残念だな」

 

 益田くんが呟いた。

 

 瞬間、私はドキリとしたけど、すぐに思い直した。益田くんは私が隣だからではなくて、この最後尾の窓際の席が気に入っているんだ。そう考えると悲しくなってしまった。

 

 席替えが終わった。

 

 私と益田くんが隣同士になるなんて奇跡は起きなくて、私は真ん中の方の席になって、益田くんは私の右斜め上の方に座っている。

 

 それからというもの、七月中は予想通り彼と話をすることは全くなくなり、右側の前の席に座っている彼の背中を見つめ続ける日々を私は送っていた。

 

 そうして、一学期の最終日となった。

 

「お前達は来年受験生だ。受験生になってから勉強を始めても遅い。だから、夏休みの有り余る時間を有効に使うようになー」

 

 ホームルームが終わり、帰ろうとしていた時のこと。

 

「小野さん、ちょっといいかな」

 

 聞き覚えのある懐かしい声に私の胸は一気に暴れ始めた。

 

 益田くんだった。

 

「あ……えと……何?」

 

 私はしどろもどろになった。

 

「夏休み、空いてる日ないかな。よかったら、宿題一緒にやらない?」

 

「え……私と?」

 

「うん、どうかな?」

 

「私でよければお願いします」

 

 何言ってるんだ私は。私でよければお願いしますって。私は顔が赤くなるのを感じた。

 

「そっか。よかった。じゃあ、連絡先交換しよう」

 

 どれくらいの時間が経ったんだろう。私は放心状態のまま帰路についていた。

 

 夏休みに益田くんと会う。しかも二人きりで。地味な私の人生にもこんなことってあるんだ。

 

 私は不安を抱きながらも楽しみでしょうがなかった。

 

 窓の外に視線を移すと、時刻は夕方だけど日の長くなったまだまだ明るい青空があった。

 


【図書館】

 夏休みの初旬、殆ど予定の入っていない私は益田くんとの約束をすぐに取り付ける運びになった。

 

 私達は隣町の図書館で会うことになっている。列車の中で落ち着かない私。男の子と会うなんて生まれて初めてだ。しかもあの益田くんとだ。私は居ても立ってもいられずに約束の時間よりもかなり早く家を出てしまっていた。

 

 図書館に着くと私は席を窓際に決めて、外の景色を眺めながら待つことにした。車がまばらに通り過ぎていく。これ程、緊張しながら外の景色を眺めている人もそうそういないだろう。そんなことを考えながら待っていた。

 

 暫くすると、図書館の玄関へ向かって歩いている益田くんを見つけた。

 

(あっきた)

 

 私の胸はすぐに高鳴った。

 

「小野さん、早いね、待った?」

 

「おはよう、ううん、大丈夫」

 

「今日はありがとね、じゃあ始めよっか」

 

 私の数少ない取り柄である勉強にこんなメリットがあるなんて思いもしなかった。私達は終始、宿題を進めつつ、時々私は益田くんの分からないところを解説した。

 

 私はこの瞬間が永遠に続いて欲しいと強く思った。

 

 初めての勉強会は瞬く間に終わってしまった。緊張感はあったけど、こんなに暖かでふわふわした気持ちで勉強したのは初めてだった。

 

「今日はありがとう。小野さんのおかげでかなり捗ったよ」

 

 益田くんが嬉しそうな顔をしてくれた。

 

「いえいえ、こちらこそありがとう。私も大分捗ったよ」

 

 私は益田くんの役に立てたことがとても嬉しく感じた。

 

「あのさ、良かったらまた一緒に勉強しない?」

 

 益田くんがまた真っ直ぐな瞳を向けてきた。

 

「あっ私でよければお願いします」

 

 また会ってくれるんだ。その一言で私の体の要領は嬉しさで一杯になった。

Rusty Rail

Rusty Rail