【きらびやかな街へ】
彼が東京へ行ってから、私は新しい生活に悩まされた。慣れない大学生活と元々の内気な性格が故に、上手く大学に馴染めずにいた。
大学で孤独を感じる度に彼に会いたい気持ちが貯まっていった。
最初は毎日電話していたけど、彼が忙しいのかなかなか繋がらない日もあった。LINEの返信だってだんだん遅くなってきていた。
そんな不安もあるけど、もうすぐゴールデンウィークだ。私は彼に会うが楽しみで仕方なかった。
そんな日々の中、彼からLINEがきた。
「ごめん、裕子。ゴールデンウィークの初日にサークルの先輩に誘われてしまったのが断れなかった。だからさ、良かったらこっちに来ない?東京案内するよ」
私は何故だかがっかりしてしまった。こっちに帰ってきてくれるんじゃなかったの。
それでも、彼に会いたかった。
私は初めて彼のいるきらびやかな街へ出向くことになった。だって、会いたいんだもん。こんなに会いたいんだったら、私は彼に付いていった方が良かったのかなぁ。
そうして、私は彼の住むきらびやかな街へ降り立った。まず、その街の人の多さに落ち着きを失ってしまっていた。
「裕子、久しぶり」
私は一瞬誰だか分からなかった。いや、あの益田くんなんだけれども、なんだか雰囲気が変わったというか、垢抜けたというか、大人びて見えた。人って一月でこんなに変わってしまうものなんだろうか。
「あっなんか雰囲気が変わったね」
「えっ?そうかな?」
「裕子を連れていきたいところが沢山あるんだ」
彼は生き生きとしていて楽しそうだった。
うん。彼との東京観光は楽しかった。一月ぶりの彼に少し戸惑ってしまったけど、一緒に過ごしていくと、すぐにあの益田くんを感じることができた。彼が隣にいてくれたら私は勇気を貰える。私の心は舞い上がってしまっていた。
「あれっ大樹じゃん」
突然向かいから陽気な声が聞こえた。男女5人組のグループだった。
「あっ克哉」
益田くんも笑顔で対応する。
「地元にいるって言ってた彼女さん?」
いかにも都会にいそうなお洒落に着飾った女の子が言った。
「そうだよ」
彼は私の方を向いて彼らを紹介してくれた。
「どうも、初めまして」
私には気の効いたことは言えなかった。
彼らが立ち話を始めた時、私は一人取り残されて居たたまれない気持ちになってしまった。
「あの、大樹くん、彼女さん困ってるよ」
あのお洒落な女の子が言った。
「あっうん。ごめん、もう行くわ」
「なんかすみません」
「こちらこそすみません、東京観光楽しんでくださいね」
あのグループと別れてから私は急にへこんでしまった。益田くんはここでの暮らしを楽しんでいるんだ。これから、このきらびやかな街のようにどんどん変わっていくのかな。
私はあの地味な街と同じで変われそうにない。
私は彼に取り残されたような寂しい気持ちになってしまった。
【未来は………】
私は地元に帰ってきていた。私の目の前には霧がかかっている。これからその見晴らしの悪い道を歩んでいかないといけないような不安ばかりが渦を巻いている。
これから、益田くんはあのきらびやかな街でどんどん変わっていくのだろう。それに引き換え、私はこの錆びれた街で何も変わることはないのかもしれない。
この街で彼の帰りを心待ちにしていかなければならないのだろうか。
私は一人部屋の中で希望の見えない未来に不安ばかりを感じている。
【あの線路を辿り行けば】
大学生活が始まると、なかなか彼に会うことはできない。次第に減っていくLINEや電話の回数に寂しさを感じてしまうばかりだった。
私は彼の住むきらびやかな街での出来事を聞くのが苦痛だったし、大学生活が上手くいっていない自分の事を話すのも嫌だった。
そんな中、彼からのLINEがきた。
「夏休みになったら、すぐに帰省するよ」
私は彼に会うのが怖くなってしまっていた。
あのきらびやかな街で彼はどれだけ変わってしまったのだろうか。
何も変わっていない私は彼と対等に接することができるのだろうか。
私の身体もあの列車に乗っていけば何か変わっていたのかなぁ。