頑張りが報われず憂鬱な気分のまま俺は出社した。
ぼんやりとエレベーターを待っていると、隣の部署の山中がやってきた。俺は仕事上で直接的な関わりはなかったけど、山中は筋トレ好きということで有名人だったので彼のことは知っていた。スーツ越しからでも分かる膨れ上がった逞しい胸筋が所狭しとYシャツをはちきろうとしているようだった。
「おはようございます」俺は頭を下げた。
「おはよう」山中はしっかりとした低い声で挨拶を返した。
筋肉のせいか堂々と頼もしい雰囲気を山中に俺は感じた。
エレベーター内に二人きり。一瞬の沈黙。俺は思わず静寂を切り裂いた。
「筋肉凄いっすね」
「ん、ああ、ありがとう」筋肉を称賛されることに慣れているのだろう、山中は社交辞令を受け取ったかのように返答してきた。
「俺、かなり正月太りしちゃったんすよ、で、三週間程ランニングしたんですけど、体重が全然変わらないんすよね」
「ああ、そうなんだ、まあ、摂取カロリーが消費カロリーを下回れば体重は減るぞ」
「えっ、それってどういう………」
俺が聞きかけた時にエレベーターが止まり扉が開いてしまった。
「まあ、詳しく知りたければ昼休みは大抵食堂にいるから見かけたら声かけてくれないか」山中はそう行って立ち去ってしまった。
俺は何か大事なことが聞けそうだと直感的に感じた。
俺は早速昼休みに山中を探して挨拶した。
「どうもっす」
「ああ、朝の君か。えっと名前は?」
「兼遠です」自己紹介しながら隣に腰を下ろした。
「あっ弁当なんすね」俺は山中の弁当箱を覗いてみた。ドレッシングも何もないブロッコリーのサラダ、焼いた鶏肉、何か得たいの知れないスープがそこにあった。食堂のラーメンとチャーハンのセットの乗ったトレーを持っていた俺は何故か急に恥ずかしさを覚えた。
「なかなかダイエットが上手くいかないということだったな」
「はい、そうなんすよね」
「朝の説明だな。まあ、凄く簡単に説明すると、自分が食事で摂取するカロリーが活動で消費するカロリーを下回れば痩せてくるんだ。消費するカロリーは基礎代謝といって生きているだけで身体内で消費してくれるカロリーと活動代謝といって日常生活や運動による活動によって消費するカロリーがあるだ。」
「はい」
「とりあえず大雑把に知るなら基礎代謝はインターネットサイトでに年齢と身長と体重を入力すれば目安となるものは分かるし、活動代謝の運動の種類毎のカロリー消費量も大体の目安は調べれば分かるんだ。」
「へぇ、そうなんっすね」
「それでこれが大事なんだが、摂取カロリーも自分が何食べたかを入力して大体の摂取カロリーを計算してくれるアプリがあるから、それを使ってまずは自分のカロリー収支を調べてみるところから始めてみるといいと俺は思うぞ」
「なるほど」
「この兼遠くんが食べてるラーメンとチャーハンのカロリーを見て驚くことになるぞ」山中さんは、ははっと笑いながら言った。
「うっ」俺は言葉を詰まらせた。
その後、俺は山中さんと自分の基礎代謝量を調べて、お薦めのカロリー計算アプリを教えてもらった。
なるほど、数値化するとより詳しく原因が分かるかもしれない。よし、ここからやってやるぜ。俺の闘志はみなぎっていた。